結庵報告書

[#ここから7字下げ]この一篇は、たいへんおそくなりましたけれど、結庵報告書ともいうべきものであります。井師をはじめ、北朗兄、緑平兄、酒壺洞兄、元寛兄、白船兄、樹明兄、そのほか同人諸兄姉の温情によって、句集が出版され、草庵が造作されました。おかげで私は山村庵居の宿題を果すことが出来て、朝々、山のしずけさ人のあたたかさを満喫しております。ここに改めてお礼とお詑とを申し上げる次第であります。[#ここで字下げ終わり]

 一昨年――昭和五年の秋もおわりに近い或る日であった。私は当もないそして果てもない旅のつかれを抱いて、緑平居への坂をのぼっていった。そこにはいつものように桜の老樹がしんかんと並び立っていた。[#ここから2字下げ]枝をさしのべてゐる冬木[#ここで字下げ終わり] さしのべている緑平老の手であった。私はその手を握って、道友のあたたかさをしみじみと心の底まで味わった。 私は労れていた。死なないから、というよりも死ねないから生きているだけの活力しか持っていなかった。あれほど歩くことそのことを楽しんでいた私だったが、『歩くのが嫌になった』と呟かずにはいられない私となっていた。それほど私の身は労れていたのである。『あんたがほんとに落ちつくつもりなら』緑平老の言葉はあたたかすぎるほどあたたかだった。

— posted by id at 03:08 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1696 sec.

http://universal-unity.com/