老舗の中央亭

 戦前、名古屋で、洋食と言ったら、老舗の中央亭、朝日ビルのアラスカ、観光ホテル、ぐらいのものではなかったか。 そりゃあ、名古屋にだって、得月とか、何とか、上等の、うまいもの屋は、あった。けど、そいつは、脂の好きな僕には、縁がなく、せいぜい、加茂女の豚の角煮ぐらいしか覚えていない。 それが、戦後の名古屋の洋食は、ワアッとひらけた。 町名を忘れたが、今松というグリルが、戦後の洋食の草分けではないのか。これが、松阪屋裏の、バンガローとなって、こくのあるフランス料理を食わしたもんだが、今松もなくなり、バンガローは、喫茶店になったとかきいたが。 八雲って店も、「先生」と呼ばれる、老チーフが、科学実験してるみたいな顔で、眼の前で料理するのが、たのしかった。 八千代の、ビフテキも、結構である。東京へ出したって、立派だ。 八百文という店を御存知か? 名宝前の小さな、古風な洋食屋だが、ここのタンシチュウは、実にいい。量も、たっぷりで、昔流の味だが、うまくて、安い。僕は、名古屋へ行く度に、必ず食っている。 と書いていて、今、僕の列記した店の名前が、みんな、八の字が附いていることに気がついた。八雲、八千代、八百文。 もう一つ、八の字を追加すれば、天ぷらの八重垣だろう。これは、洋食じゃあないが。 これも町名不詳。最近八重垣へ行ったら、おかみさんが、「高い天ぷら食べて下さいますか」と言った。僕が曾《かつ》て此の店のことを、何かの雑誌に、天ぷらは、うまいが、高い高いと、もっとも、それは戦争はるか以前のことなんだが、そう書いたのを、読んだらしい。 その頃は、全く高かったんです。 では、今は如何というと、今は、うまくって、お値段も安い。そう書けば、おかみさん、文句ないだろう?

— posted by id at 03:08 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1808 sec.

http://universal-unity.com/