ばらばらと寺の中へ駈けあがった

 討手の者は頭の声と共に、ばらばらと寺の中へ駈けあがった。住職はそのまま離屋の方へ走って往って、六人の者を逃がそうとした。三四人の討手は住職を追って来て、彼が離屋の縁側へあがろうとするのを押えて捩伏せた。「奥様も御子様達も、早く、早く、討手が来たから、早く、早く」 住職は捩伏せられながら叫んだ。討手の者は皆其処へ集まって来た。六人の者は縄をかけられた。

 その翌日、比江山の妻子六人は、比江の磧へ引きだされた。六人の成敗せられることを聞いて、附近の者が集まって来て、それを執り囲んで見物していた。 縄をかけられた六人の者は、磧の沙の上に坐らされていた。小さな末の女の子は母の方を見て泣き続けていた。刀を持った首斬の男はその女の子の傍へ往った。 その時であった。見物人を押分けて長福寺の住職が出て来た。住職は狂人《きちがい》のような眼をして、見物人の方を見返った。「このうちに植田の者はおらんか、なんと云う人非人じゃ、こうして成敗をせられようとしておる者が、可哀そうじゃないか、この怨みはどうしても忘れんぞ」 住職はこう云って腰へ手をやった。その腰には一本の刀があった。住職はその刀を抜いて立ったなりに腹へ突きさした。群集は恐れてわっと声を立てて後へ退いた。住職は刀を引き廻した。首斬の刀はそれと同時に女の子の首に往った。 住職はじめ比江山妻子の死骸は、その日に新改村へ葬られた。その夜からその附近に奇怪なことがありはじめた。火の玉も飛んだ。路で頓死する者があったり、発狂する者があり、病気になる者があった。わけて植田の者にその奇怪が多かった。「七人御先、七人御先」

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