臆病者共が何を云う

 八人御先の噂は日に日に昂まって来た。その噂は元親の耳にも入った。元親は嘲笑った。「臆病者共が何を云う、そんなばか気たことがあってたまるものか」 恐ろしい火の玉は城の中にも飛びだした。その火の玉に当って発狂する者もあった、病気になる者もあった。元親の傍にいた若侍の一人も、その火の玉に往き逢って病気になり、とうとう死んでしまった。元親もそれには驚いて、城下の寺へ云いつけて祈祷をさした。 寺ではその云いつけどおり、八人の位牌を拵えて本堂の台の上に置き、数十人の僧侶がその前に立って読経をはじめた。この祈祷のことを聞き知った城下の人びとは、見物にとその寺へ集まって来た。 読経は厳粛に行われた。集まって来た見物人は、この読経に耳を傾けて静まっていた。と、台の上に並べた八つの位牌が動きだした。親実の位牌が一番に台の上から飛びおりるように落ちると、後の位牌も順々にしたへ落ちた。僧侶は恐れて読経の声が止んでしまった。親実の位牌を前にして、位牌は列を作って本堂から出て往った。僧侶も見物も眼が眩んだようになって、それをはっきりと見る者はなかった。位牌は何時の間にか消えてしまった。そして、空の方で数人の笑う声が聞えた。 位牌の不思議が元親の耳に入ると、元親も親実はじめ八人の者を殺したことを後悔しだした。彼は国中の寺々へ向けて、二日三夜の大供養をさした。寺々では領主の命を受けて、それぞれ供養をはじめたが、読経していると、僧侶の首が皆右の方へ捻向けられたようになって動かなくなった。 元親はこのことを聞くと家来を己《じぶん》の前へ集めて、八人の怨霊を静める方法を評議した。 傍に使われていた近侍の少年が、急に発狂したようになって云った。「我は左京之進殿の使者《つかい》じゃ、左京を神にして祭るとなれば、喜んで受けられる」 木塚の親実の墓は、結構を新らしくして社として祭りだした。木塚明神と云うのがそれである。八人御先の怪異は、それといっしょにすくなくなったが、それでも時どきその御先に往き逢ったと云って、病気になったり、頓死する者があったりするので皆それを非常に恐れた。

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