非常に人の同情を惹いた

 親実はじめ八人の死は、非常に人の同情を惹いた。それと共に親実の小高坂《こだかさ》の邸や木塚村の墓所には、怪しい火が燃えたり、弾丸のような火の玉が飛んで、それに当った人は即死する者もあれば、病気になる者もあった。これは八人の怨霊であると云いだした。八人御先、この恐ろしい八人の怨霊の噂は、大高坂を中心にして昂まって来た。仁淀川の渡守の見た奇怪も聞えて来た。 その時分であった。久武内蔵助の邸では、五つか六つになった末の男の子が、庭へ出て、乳母や婢《じょちゅう》に囃《はや》されて遊んでいた。小供は乳母の傍からちょこちょこと離れて、庭前《にわさき》の松の木の根元のほうへ往った。其処には小供の気に入りの小さな犬が、沙《すな》の上へ白い腹をかえして寝ていた。「わんわん」 小供は犬の真似をしていた。松の傍から五十余りの髪の白い女が出て来た。乳母はその女に眼を留めてこの庭前に何しに来た人であろうかと不審した。「※[#「※」は「女+朱」、第3水準1-15-80、84-9]《きれい》な若様じゃ」 老女はこう云って男の子に近づいて、隻手《かたて》をその肩にやった。男の子は大きな声を出してわっと泣いた。泣いたと思うと、そのまま仰向けに引っくり返って動かなくなった。乳母が驚いて大声をだすと、後の方にいた二人の婢も驚いて走って来た。「水を、水を」 乳母は男の子を抱きあげて縁側の方へ走った。婢は狼狽《うろた》えて庭を彼方此方と走った。「若様が大変じゃ、若様が大変じゃ」 乳母が縁側をあがろうとしていると、男の子は呼吸《いき》を吹き返して泣きだした。 怪しい老女の姿はもう庭に見えなかった。男の子はそのまま病気になってしまった。不思議な病気であるから久武の邸では、寺から僧を招んで来て祈祷をしてもらった。僧は小供の枕頭に坐って小声でお経を唱えていた。 小供は急に起きあがって座敷の中を走りだした。

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